●新法施行
昨今、悪質な自動車事故による死傷事件のニュースが続いています。
しかしながら、その多くの事案で、悪質かつ危険な運転行為による事故であるにもかかわらず、法律上の問題から自動車運転過失致死傷罪が適用されるにとどまっており、被害者遺族等からは刑法の見直しが強く求められていました。
そのような状況の中、刑法から自動車運転過失致死傷罪と危険運転致死傷罪の規定を抜き出す形で上記新法が平成25年11月27日に公布され、平成26年5月20日に施行されました。
●新法の概要
新法の新しい内容としては以下の4つの点があります。
(1) 危険運転致死傷罪の新類型追加
従前の危険運転致死傷罪を移管するとともに、新類型として次の項目が追加されました。
6号:通行禁止道路(道路標識若しくは道路標識により、又はその他法令の規定により自動車の通行が禁止されている道路又はその部分であって、これを通行することが人又は車に交通の危険を生じさせるものとして政令で定めるものをいう。)を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
この規定を受け、通行禁止道路として、政令で①車両通行止め道路、②自転車及び歩行者専用道路、③一方通行道路、④高速道路の中央から右側の部分、⑤安全地帯などが定められました。
これにより、上述の①~⑤などの道路であることを知りながら、衝突すれば大きな事故になると一般的に認められる速度を認識の上で走行し、死傷事故を起こすと、暴行により死傷させた者に準じて同法による重い処罰(致傷につき、十五年以下の懲役、致死につき、一年以上の有期懲役)を受けることになりました。
(2) 中間的法定刑の新たな危険運転致死傷罪の創設
従前の危険運転致死傷罪よりは軽く、従前の自動車運転過失致死傷罪よりは重い新たな類型を創設しました。
3条1項:アルコール又は薬物の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、そのアルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を負傷させた者は十二年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は十五年以下の懲役に処する。
同条2項:自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるものの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、その病気の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を死傷させた者も、前項と同様とする。
1項は、従来からある危険運転致死傷罪の類型の一つ、アルコール・薬物の影響下で正常な運転が困難な状態で走行(2条1号)は、「正常な運転が困難な状態」の認識がない場合や立証が困難な場合に適用できず、軽い自動車運転過失致死傷罪を適用することが多かったことに鑑み、「正常な運転が困難な状態」との認識まではないが、「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」の認識=判断能力や操作能力が相当程度減退する程度のアルコール等を身体に保有する認識があれば、自動車運転過失致死傷罪より重く処罰しようとするものです。
2項は、安全な運転に支障を生じさせるおそれがある統合失調症やてんかん、低血糖症、鬱病、睡眠障害等により、正常な運転が困難な状態に陥り死傷事故を起こした場合を処罰する規定です。
(3) アルコール等影響発覚免脱の処罰
4条:アルコール又は薬物の影響によりその走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転した者が、運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた場合において、その運転の時のアルコール又は薬物の影響の有無又は程度が発覚することを免れる目的で、更にアルコール又は薬物を摂取すること、その場を離れて身体に保有するアルコール又は薬物の濃度を減少させることその他その影響の有無又は程度が発覚することを免れるべき行為をしたときは、十二年以下の懲役に処する。
従前は、犯人が逃走してアルコール検査ができず、立証ができなくなると自動車運転過失致傷罪と道路交通法の救護義務違反しか問えず、逃げ得の状態が生じていました。
これを罰するための新規定があらたに創設されました。
(4) 無免許運転による加重(6条)
自動車運転により人を死傷させたものが、無免許運転であった場合に、刑の加重を定めました。
●最後に
埼玉県警の発表によれば、施行日の5月20日、酒に酔って重傷事故を起こした事案で同法が初適用されたとのことです。
刑事処罰の厳罰化だけでなく、自動車運転による死傷事故には社会的にも厳しい目が向けられています。
会社従業員の事故などで会社のイメージがダウンしたり、会社が責任を問われる可能性もあります。
企業も、これまで以上に従業員の運転に気を配り、適正な管理をしていくことが必要といえます。
新法制定を契機に改めて、安全運転の注意喚起を行って頂ければと思います。
◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 橘 里香◆
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2014年8月18号(vol.156)>
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
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