脳は大脳(前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉)、小脳、脳幹によって構成されています。
大脳は情報の識別や記憶、認知といった精神作用を担当し、小脳は運動の強さや力のいれ具合といった運動調節機能を担当しています。
脳幹は、呼吸などの生命活動の基本的な部分を担当しています。
遷延性(せんえんせい)とは、長期にわたり病状が続くさまを意味します。
遷延性意識障害とは、長期にわたる昏睡状態(意識障害)を示す症状で、一般的には「植物状態」とも表現されます。脳の生命維持に必要な脳幹部分が辛うじて活動できていますが、大脳と小脳のほとんどが機能していない状況です。
意識障害にも程度の差があり、遷延性意識障害(植物状態)に該当するかは、日本脳神経外科学会植物状態患者研究協議会が1972年に発表した「植物状態の定義」により次のとおり説明されています。
useful life を送っていた人が脳損傷を受けた後で以下に述べる六項目を満たすような状態に陥り、ほとんど改善がみられないまま満三カ月以上経過したもの。 (1) 自力移動不可能。 (2) 自力摂食不可能。 (3) 尿失禁状態にある。 (4) たとえ声は出しても意味のある発語は不可能。 (5) 「眼を開け」「手を握れ」、などの簡単な命令にはかろうじて応ずることもあるが、それ以上の意思の疎通が不可能。 (6) 眼球はかろうじて物を追っても認識はできない。 【参考文献】 中山研一・石原明 編 1993 『資料に見る尊厳死問題』、日本評論社128頁 |
遷延性意識障害では、血圧、呼吸、心機能は自身で維持できますが、認知機能は機能していないとされています。
心肺機能や自律神経機能を維持する器官は正常であるため、医療や看護が十分に行われれば、生命を維持することは可能です。
しかし、遷延性意識障害の患者は、自己を認識することはなく、あくびなどの行動や外部からの刺激に反射的な反応が認められることはありますが、意思疎通はできません。
遷延性意識障害より少しだけ意識レベルが回復した状態に、最小意識状態があります。最小意識状態では、患者が自身や外界を認識している様子もあるようですが、その程度は限られており、また詳しいことはわかっていません。
ごくまれに遷延性意識障害から回復し、最小意識状態となる場合もありますが、機能の完全回復は難しいと考えられています。
主に、脳に外部から大きな衝撃が加わることによる、びまん性の脳損傷によって起こります。
「びまん」とは「一面に広がる」といった意味です。
脳のびまん性損傷がおきた場合、脳の各部位を連結する脳神経線維まで広範囲の損傷がおこるため、致命的な打撃を受ける可能性が高くなります。
また、このびまん性脳損傷の発生も2通りがあります。
・事故時に大きな衝撃を受け直接発生する場合。(衝撃で脳が激しく揺さぶられ、せん断力によって脳が損傷する場合です。「びまん性軸索損傷」と言われています。)
・事故時の衝撃で頭蓋内血腫(ずがいないけっしゅ)や脳腫脹(のうしゅちょう)等が徐々に脳を圧迫して脳全体を損傷する場合です。
後の方でも触れますが、外傷性の脳損傷では、その程度において遷延性意識障害にまではいたらない場合も多くあります。
しかし、この場合でも高次脳機能障害など、後遺障害を伴う場合が多いのが実情です。
そして、びまん性軸索損傷では、事故直後のCTなどの画像では、一見して異常が見られない場合も少なくありません。
その場合、脳外傷の存在を判断するために、意識障害の有無とその程度や長さ、脳室の拡大、びまん性脳萎縮の所見がないかを確認していくこととなります。
診断は、上記「植物状態の定義」であげた項目に沿った判断と、脳損傷に関する他覚的な所見(画像資料)によります。
脳損傷を他覚的に確認するための検査方法としては、主に次のものがあります。
・CT(Computed Tomography)
X線を照射して得られた断層写真を、コンピュータによって再構築したものです。比較的短時間で撮影できるため、事故直後はCTで撮影されることが多いといえます。
・MRI(Magnetic Resonance Imaging)
水分の多い軟骨組織の抽出に優れ、撮影方法によって脳内の微細な出血痕や脳血流量の状態を確認することができます。
遷延性意識障害の診断にはCTとMRIのいずれも撮影されることが多いと思われます。
また、この他に、核医学検査としてSPECT(single photon emission computed tomography)やPET(Positron Emission Tomography)といわれるものがあり、総合的な検査によって診断されます。
遷延性意識障害に対し特異的な治療法はありません。
治療は、患者に対し適切な栄養補給を行い、現状の状態を保つことが中心となります。
また、家族による常時介護が求められています。
特に、交通事故などの外傷性によって遷延性意識障害となった場合、意識回復の可能性は高くありません。
また、奇跡的に意識が回復したとしても、重度の後遺障害が残る場合が多く、自立して生活できる人はわずかというのが実情といえます。
【別表第1】
等級 |
介護を要する後遺障害 |
保険金額 |
労働能力喪失率 |
第1級1号 |
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
4、000万円 |
100/100 |
遷延性意識障害は、昏睡状態が続き回復の見込みがほとんどなく、奇跡的に意識が回復したとしても家族の常時介護を必要とする重度の障害が残ります。
このため、身体機能は残っていますが、高度の痴呆があるために生活維持に必要な身の回り動作に全面的介護を要するものとして、最も重い後遺障害等級となる別表1の第1級1号に該当します。
遷延性意識障害では、将来にわたる治療や付添人による介護を受ける必要があります。
このため、その損害項目も多岐にわたり、また損害が高額になることが多いです。
下記には、遷延性意識障害において考えられる損害項目をあげています。
損害については、その必要性や金額について争われることが多く、また下記にあげた以外の損害もあり得ますので、個別的な問題については弁護士にご相談いただくことをお勧めします。
・症状固定までの入院治療費
・将来の治療費
・付添看護費
・付添交通費
・付添宿泊費
・将来看護費
・入院雑費
・将来雑費
・後遺障害逸失利益
・介護器具等の購入費など
・入院慰謝料
・後遺障害慰謝料
・近親者の固有の慰謝料
・遅延損害金
(・後見関係費用)
(・弁護士費用)
後見関係費用について、遷延性意識障害の患者は意思能力がないと判断されるため、ご本人で交渉や訴訟ができない状況にあります。
したがって、裁判所に対し後見人の選任申立てを行い、後見人が手続きを進めていく必要があります。
時折りご家族などがご本人に代わって保険会社などと交渉をしてしまうこともありますが、後になって争いになってしまうことも懸念されます。
どのような手段がとれるのか、ご家族としてどのような行動をとるべきなのかを含め、弁護士に相談されることをお勧めします。
遷延性意識障害の損害は上記のとおり多岐にわたり金額も高額もなるため、相手方から厳しい反論がされることが多くあります。
そして、時には「一般的に植物状態患者の平均余命は10年程度で、その期間をもって逸失利益等の計算をすべき。」などと心無い反論がされることもあります。
また法的な問題として、今後の生活費を控除するべきかどうか、中間利息の控除をどう扱うべきかなど難しい問題もあります。
このような問題も、弁護士であれば適切にアドバイスをすることができますので、ご相談をしていただければと思います。
遷延性意識障害にいたらない、もしくは遷延性意識障害から回復した場合にも重度の後遺障害が残る可能性があります。
その場合も症状の内容によっては、次のとおり後遺障害に該当します。
【別表第2】
等級 |
後遺障害 |
保険金額 |
労働能力喪失率 |
第2級1号 |
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの |
3、000万円 |
100/100 |
【別表第3】
等級 |
後遺障害 |
保険金額 |
労働能力喪失率 |
第3級3号 |
1神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの |
2、219万円 |
100/100 |
第5級2号 |
1神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
1、574万円 |
79/100 |
第7級4号 |
1神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
1、051万円 |
56/100 |
第9級10号 |
1神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
616万円 |
35/100 |
【対応エリア】
新潟県(新潟市、新発田市、村上市、燕市、五泉市、阿賀野市、胎内市、北蒲原郡聖籠町、岩船郡関川村、岩船郡粟島浦村、西蒲原郡弥彦村、東蒲原郡阿賀町、加茂市、三条市、長岡市、柏崎市、小千谷市、十日町市、見附市、魚沼市、南魚沼市、南蒲原郡田上町、三島郡出雲崎町、南魚沼郡湯沢町、中魚沼郡津南町、刈羽郡刈羽村、上越市、糸魚川市、妙高市、佐渡市)、長野県(長野市、松本市、上田市、岡谷市、飯田市、諏訪市、須坂市、小諸市、伊那市、駒ヶ根市、中野市、大町市、飯山市、茅野市、塩尻市、佐久市、千曲市、東御市、安曇野市、南佐久郡、北佐久郡、小県郡、諏訪郡、上伊那郡、下伊那郡、木曽郡、東筑摩郡、北安曇郡、埴科郡、下高井郡、上水内郡、下水内郡)、群馬県(高崎市、前橋市、桐生市、伊勢崎市、太田市、沼田市、館林市、渋川市、藤岡市、富岡市、安中市、みどり市、北群馬郡、多野郡、甘楽郡、吾妻郡、利根郡、佐波郡、邑楽郡)
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