弊事務所では、事故賠償チーム、家事チーム、企業法務チームといった専門チームを設け、各分野においてより専門的、先進的なサービスを適切迅速に提供できるよう、日々研鑽を積んでおります。
中でも、事故賠償チームにおいては、交通事故に関する見識を深めるために、毎月勉強会を実施しています。
本コラムでは、「むち打ち症以外の原因による後遺障害等級12級又は14級に該当する神経症状と労働能力喪失期間」について、弁護士同士の対話形式で解説します。
(※以下、兄弁護士⇒兄弁、弟弁護士⇒弟弁と表記します。)
弟弁:先生、後遺障害による労働能力喪失期間について質問してもいいですか?
兄弁:どうしましたか。
弟弁:交通事故の解説書によると、むち打ちが原因となる神経症状の場合、労働能力喪失期間を後遺障害等級12級に該当するときで5年から10年程度、14級該当のときで5年以下に制限することが多いとあります。
兄弁:実務ではそのような考え方が一般的ですね。
弟弁:さらに、むち打ちが原因以外の神経症状の場合でも、同じように労働能力喪失期間を限定することが多いそうです。
しかし、これって理論的にはおかしいと思うのですが。
兄弁:なるほど。どんな点がおかしいと思いますか?
弟弁:そもそも、後遺障害とは、「永久に機能障害が残存した状態」を言うのですよね。
兄弁:そのように定義されますね。
弟弁:この定義からすると、機能障害が永久に残存するわけですから、喪失期間は就労可能年数、すなわち67歳までフルに認められないとおかしいのではないでしょうか?5年以下や10年程度に限定するのは、後遺障害の定義と矛盾するように思います。
兄弁:興味深い点に気がつきましたね。
先生のおっしゃるとおり、理論上の定義と実務上の扱いには乖離が見られるようです。
今度時間を取って学説や裁判例について勉強してみましょうか。
(1週間後)
兄弁:学説の状況はいかがでしょう。
弟弁:『赤い本2007(平成19年)版』の下巻にある講演録を大いに参考にさせていただきました。
まず学説で労働能力喪失期間を限定する根拠としては、以下のものが挙げられます。
①単なる神経症状の場合は、将来における改善が期待される
②訓練や障害への慣れ(馴化)によって職業能力が回復する可能性がある
③特に、若年の被害者の場合、障害が支障にならない職業を選択したり転職したりする可能性がある
兄弁:後遺障害による逸失利益は、
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間(※それに対応するライプニッツ係数)」
という計算式で算定しますが、②や③の見解は、仮に機能障害が永久に残存するとしても、努力や職業選択により労働能力の喪失をカバーできる場合があるという考え方ですね。
弟弁:はい。
他方、労働能力喪失期間を限定することに否定的な根拠としては以下のものが挙げられます。
①論理的には労働能力喪失期間は稼働可能年齢いっぱいにならないとおかしい
②医師の意見など医学的な裏付けもなく症状の改善が見込まれるとするのは不合理である
③障害によるハンディキャップの不利益はむしろ時間とともに大きくなるというのが実体験に合致する
④訓練や慣れといった被害者の負担・努力の成果を損害賠償額の減少という形で加害者に帰すべきいわれはない
兄弁:なるほど。
交通事故を含む不法行為制度には、「損害の公平な分担」という理念があります。
そうすると、④の意見などは非常に鋭い指摘ですね。
裁判例はどうですか。
弟弁:この赤本講演録では、全部で71件の裁判例が以下のように整理されていました。
まず、後遺障害等級12級に該当する事案は以下のようになります。
労働能力喪失期間 | 件数 |
10年以下に限定したもの | 14 |
10年以下に限定しなかったもの | 28 |
兄弁:大部分が就労可能年数までの喪失期間を認めていますね。
弟弁:続いて、後遺障害等級14級に該当する事案では以下のようでした。
労働能力喪失期間 | 件数 |
5年以下に限定したもの | 14 |
5年以下に限定しなかったもの | 15 |
5年以下に限定しなかったものでも、就労可能年数まで認めたものは半数程度で、若年被害者の事案は皆無のようです。
兄弁:たいへん興味深いレポートですね。裁判例はどう分析しますか。
弟弁:裁判所は、神経症状の場合、障害が永久に残存するものとはそれほど厳密に考えていないように思います。
むしろ軽度な神経症状については、そもそも永久残存性はないと考えているようです。
兄弁:そうすると、後遺障害については定義どおりではなく緩やかに捉えているのでしょうか。
弟弁:障害が永久に残存しないというのであれば、厳密には後遺障害には当たらないように思われます。
ただ、そうした事案をすべて後遺障害には該当しないとしてしまうのではなく、障害が消滅するまで比較的長期間継続している「後遺症」であればひとまず「後遺障害」と認定したうえで、喪失期間で調整しているように考えられます。
兄弁:確かに、機能障害が永久に残存するかどうかを見極めるために5年や10年も経過を観察しなければならないとすれば、事件が相当長期化してしまいますね。
通院に伴う被害者の負担も小さくはありません。
それでは、労働能力喪失期間を5年ないし10年に限定するのが相当ではないという事案で、具体的な喪失期間としては、裁判例ではどの程度が認定されているのでしょうか。
弟弁:あくまで事案ごとの判断ですが、被害者が比較的高齢の場合は就労可能年数(67歳)まで認められる可能性が高いようです。
逆に、若年の被害者であればあるほど就労可能年数まで認定される可能性は低くなります。
兄弁:それは、若い人ほど努力や訓練で機能障害を克服しやすいし、転職の可能性も広がるという理由によるのでしょうか。
弟弁:そういうことだと思われます。
兄弁:ここまでは労働能力喪失期間の長短について検討して来ましたが、別の要素に着目している裁判例はありますか?
弟弁:神経症状が痛み(疼痛(とうつう))を中心とする場合には、労働能力喪失率で調整する裁判例もありました。この裁判例では、被害者の症状固定時の年齢が31歳で、労働能力喪失期間は67歳までの36年を認定しているのですが、最初の18年間は14%、後の18年間は5%と喪失率を低減させるという考え方を採用しています。
兄弁:なるほど。
とても勉強になりました。
ところで、喉も乾いたのでビールでも飲みに行きましょうか。
弟弁:いいですね。
行きましょう。
(終わり)
参考文献:小林邦夫「むち打ち症以外の原因による後遺障害等級12級又は14級に該当する神経症状と労働能力喪失期間」(『損害賠償算定基準2007(平成19年)版下巻』)
「交通事故」についてお悩みの方、弁護士をお探しのみなさまは、一新総合法律事務所までどうぞお気軽にお問い合わせください。
交通事故被害者の方かららのご相談は何度でも無料(※弁護士特約を利用の場合は除く)です。
【対応エリア】
新潟県(新潟市、新発田市、村上市、燕市、五泉市、阿賀野市、胎内市、北蒲原郡聖籠町、岩船郡関川村、岩船郡粟島浦村、西蒲原郡弥彦村、東蒲原郡阿賀町、加茂市、三条市、長岡市、柏崎市、小千谷市、十日町市、見附市、魚沼市、南魚沼市、南蒲原郡田上町、三島郡出雲崎町、南魚沼郡湯沢町、中魚沼郡津南町、刈羽郡刈羽村、上越市、糸魚川市、妙高市、佐渡市)、長野県(長野市、松本市、上田市、岡谷市、飯田市、諏訪市、須坂市、小諸市、伊那市、駒ヶ根市、中野市、大町市、飯山市、茅野市、塩尻市、佐久市、千曲市、東御市、安曇野市、南佐久郡、北佐久郡、小県郡、諏訪郡、上伊那郡、下伊那郡、木曽郡、東筑摩郡、北安曇郡、埴科郡、下高井郡、上水内郡、下水内郡)、群馬県(高崎市、前橋市、桐生市、伊勢崎市、太田市、沼田市、館林市、渋川市、藤岡市、富岡市、安中市、みどり市、北群馬郡、多野郡、甘楽郡、吾妻郡、利根郡、佐波郡、邑楽郡)
交通事故被害者 電話無料相談
当事務所では交通事故チーム所属の弁護士による無料電話相談を行っております。電話相談をご希望の方は「電話相談希望」とお申し付けください。
新潟県弁護士会・長野県弁護士会・群馬弁護士会・東京弁護士会所属
Copyright(c) ISSHIN PARTNERS
弁護士法人 一新総合法律事務所
Copyright(c) ISSHIN PARTNERS