「逸失利益」とは、交通事故によって亡くなったり、後遺症が残ったりしなければ得られたはずの利益のことを言います。
逸失利益の算定は、被害者が将来得られるであろう収入の額(基礎収入)をもとに算定されます。
基礎収入は、原則として事故前に得ていた現実収入の額とされます。
しかし、学生や若年労働者等は、現実収入の額と、将来にわたって得られる見込みのある収入の額が大きくかけ離れている場合があります。
これらの場合には、個別の事案の具体的事情を考慮して基礎収入額を認定しますが、具体的事情によっても、どうしても基礎収入額の適切な指標が得られない場合もあります。
そのような場合、賃金センサスを参照して基礎収入を認定することがあります。
幼児、生徒、学生の基礎収入には、賃金センサスの全年齢平均賃金が用いられています。(東京、大阪及び名古屋の各地方裁判所民事交通専門部による「交通事故による逸失利益の算定方式についての共同宣言」。以下「三庁共同宣言」と言います。)
幼児、生徒、学生は、将来に多様な可能性が見込めるため、反証がない限りは、全年齢平均賃金に相当する収入を得る蓋然性があると考えられているからです。
なお、現在の実務では、男女の平均賃金の差による男女間の格差をできるだけなくす観点から、男子については男性全年齢平均賃金を採用し、独身男子に一般的に用いられる生活費控除率50%として算定するのに対し、女子については全労働者の平均賃金を採用し、生活費控除率を45%とする扱いとしています。
生徒や学生であっても、将来の進路や職業の選択が具体化している場合には、学歴別や職種別の平均賃金を用いる場合があります。
例えば、大学看護学部の学生について、卒業生の看護師志望の学生の国家試験合格率がほぼ100%であること、卒業生の看護師の大半が同大学病院に就職していること、同大学病院の看護師数が800名余りであることを考慮し、賃金センサス第3巻第4表男女計・企業規模100~999人・看護師の平均賃金を用いた事例があります(名古屋地判平成29・4・21)。
働き始めて間もない若年労働者は、現状の収入は労働者全体の平均賃金より少ない一方、年数を経れば収入が上がる可能性が高い場合もあります。
そこで、三庁共同宣言では、就業期間が比較的短期であり、かつ、事故前の現実収入が年齢別平均賃金より相当に低額であっても、おおむね30歳未満の者については、
としています。
若年労働者の場合、既に就労しているため、年少者や学生に比べれば、将来得る蓋然性の高い収入がどのくらいなのかの判断がしやすい場合も多いと言えます。
そこで、全年齢平均賃金を割合的に増額・減額したり、企業規模・業種・職種に応じた平均賃金を用いることも考えられます。
具体的には、事故前に特定の企業に継続的かつ安定して就業し続けており、当該企業の離職率が低い等、被害者が定年まで勤務する蓋然性が認められる場合には、当該企業の規模、業種又は職種に応じた平均賃金を用いることが考えられます。
また、医師、看護師、薬剤師のように、労働市場において一定の需要があり、現在就業している企業に継続的に勤めるか否かにかかわらず、相応の賃金を見込める資格を保有している場合には、当該資格に対応した職種の平均賃金を用いることも考えられます。
専業主婦の場合、現実収入はありませんが、家事労働も労働社会において金銭的に評価されうるものであり、他人に依頼すれば当然相当の対価を支払わなければならないのであるから、家事労働も財産上の利益を上げていると考えられています(最判昭49・7・19)。
そこで、三庁共同宣言では、専業主婦の基礎収入は、原則として女性の全年齢平均賃金を用いるとしています。
ただし、年齢、家族構成、身体状況及び家事労働の内容等に照らし、生涯を通じて全年齢平均賃金に相当する労働を行い得る蓋然性が認められない場合には、年齢別の平均賃金を参照して適宜減額するとしています。
例えば、裁判例では、68歳の主婦が受傷した事例において、高齢であり、その労働は通常の主婦の労働量よりも少ないことは明らかであるとして、全年齢女子平均賃金の7割を基礎に、後遺症逸失利益を算定した例などがあります(神戸地判平13・4・20)。
三庁共同宣言では、現実の収入額が女性の全年齢平均賃金を上回っているときは現実の収入を基礎収入とし、現実の収入額が女性の全年齢平均賃金を下回っているときは専業主婦の例にならって処理をするとしています。
「逸失利益」は、交通事故がなければ将来にわたって得られたはずの利益ですから、失業者を含むその他の無職者についても、将来就労する蓋然性があれば、逸失利益の発生が認められます。
そこで、無職者であっても、被害者の年齢、学歴その他の経歴や生活状況、健康状態、失業に至った経緯と就労していなかった期間の長さ、再就職の見通しの有無等を総合考慮し、就労の蓋然性が認められる場合には、失業前の収入の金額も参考としつつ、賃金センサスの平均賃金を用いて蓋然性の高い基礎収入額を認定し、逸失利益を算定することがあります。
失業者であっても、一定の規模の企業や職種、産業で就労する蓋然性が認められるのであれば、企業規模別、職種別又は産業別の平均賃金を用いることが考えられます。
ただし、失業者は少なくとも現時点で職を失っているため、今後、特定の企業に継続して勤務し、定年まで勤めることの蓋然性が認められるのは例外的な場合に限られると考えられます。
他方、医師、看護師、薬剤師等、労働市場において常に一定の需要があり、勤務する企業の個性に関係なく相応の賃金を見込める資格を保有している場合には、当該資格に応じた職種別の平均賃金を用いることもできると考えられます。
[参考文献]
・民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準 平成15年版下巻(講演録編)294~301頁/公益財団法人 日弁連交通事故相談センター東京支部
・民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準 平成30年版下巻(講演録編)7~25頁/公益財団法人 日弁連交通事故相談センター東京支部
・民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準 平成31年版下巻(講演録編)25~47頁/公益財団法人 日弁連交通事故相談センター東京支部
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