非器質性精神障害とは、脳の器質的損傷を伴わない精神障害とされています。
非器質性精神障害では、外力による器質的損傷と異なり、精神機能の障害の存在やその原因を客観的に確認することが難しく、その原因や機序が不明確で事故との因果関係の判断に困難が伴います。
そこで今回、過去の裁判例が器質性精神障害(いわゆる高次脳機能障害)と非器質性精神障害がどのような要素をもって判断しているのか、研究することとなりました。
最初に考慮される要素は、事故によって頭部への外傷があり、脳挫傷等の脳損傷が認められるかどうかです。
頭部への外傷や脳損傷があれば直接的に脳への強い打撃について認めることができます。
この脳損傷の有無を判断するにあたっては様々な医学的機器がありますが、裁判所がその判断手法についてどのような見解を示しているかが次のとおりとなります。
(CTやMRIでの明確な画像所見がなく)拡散テンソル画像やFA-SPM解析画像の基礎になるPETやfMRI(磁気共鳴機能画像法)の信頼性に疑問があるとする医学的見解もあることから、これらの画像結果をもって脳外傷を裏付けることはできない。
拡散テンソル画像、FA-SPM image、FDG-PETは、いずれも現時点では、技術的な限界等から、それらのみで脳損傷の有無、障害程度等を確定的に示すことまではできない。
PET検査において、左前頭葉に酸素消費量の相対的低下が認められたとしても、これのみでは、脳損傷の有無、認知・行動面の症状と脳損傷の因果関係あるいは障害程度を確定的に示すことはできない。
受傷直後の意識障害の有無も大きなポイントとなります。
頭部への外傷や脳損傷があり、かつ受傷後の意識障害が認められると、精神症状の内容を踏まえて高次脳機能障害として認定されるケースが多くなります。
意識障害に関する裁判所の判断として、次のようなものがあります。
事故後の意識障害が「目の前が真っ暗」になったという程度で脳萎縮等の画像所見はないが、複数の鑑定人の意見書(肯定3、条件付2、否定1)を比較検討して高次脳機能障害にあたると判断した。
脳室拡大・脳萎縮等の画像所見はなく、意識障害の程度も低いが、入院時から記憶障害が現れていたことなどから、自賠責が非該当とした精神障害を脳の器質的障害として7級と認定した。
ごく短い時間の意識障害しかなく、脳萎縮等の画像所見もない被害者について軽度外傷性能損傷(脳しんとう)として、器質的損傷による高次脳機能障害5級を認定した。
最後に高次脳機能障害として認められるためには発症している精神症状が他の要因(認知症や既往症としての精神症)ではないこと、すなわち受傷の結果精神症状が発生したという因果関係が必要となります。
因果関係については、肯定例、否定例の両方がありますが、今回は主に否定例について取りあげました。
受傷後4年以上が経過した段階で認知機能の飛躍的改善が認められたことは、原告が脳に器質的損傷を被ったことと整合せず、精神的・心因的要素の影響が推認される。
遅発性(事故から2年半の経過)の精神症状について、医学的な説明がつかず、高次脳機能障害の症状は心理的要因に基づくことが推測される。
事故後に認知症を発症した被害者(男性・事故当時85歳)。
原告の主張する高次脳機能障害(認知症状)は、事故から約7か月後のところで、本件事故とは時間が余りにも離れすぎており、頭部打撲を原因として認知症を発症するとは困難といわざるを得ない。
以上のように、高次脳機能障害の認定には複雑なプロセスがあり、そのハードルも低いとはいえません。
高次脳機能障害を認定してもらうには、判断要素に従って受傷前と受傷後を比較し、信用性の高い証拠を集めることが重要です。
交通事故の被害にあい、高次脳機能障害の認定についてお悩みの方は、ぜひ一度弁護士への相談をご検討ください。
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[参考文献]
民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準 平成31年版下巻(講演録編)49~83頁/公益財団法人 日弁連交通事故相談センター東京支部
民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準 平成17年版下巻(講演録編)67~92頁/公益財団法人 日弁連交通事故相談センター東京支部
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