交通事故の損害賠償額を計算するときに、過失割合が問題になることがあります。

追突事故のように被害者の過失割合が0になる場合は、過失割合の問題は生じないのですが、例えば、信号機がない交差点内での出合い頭の事故や、駐車場内で双方の車が走行中の接触事故などは、過失割合が何対何になるのかを考えます。

過失割合を決めるときに、事故状況を正確に把握することが重要になります。

ドライブレコーダーの普及に伴って、客観的に事故状況を把握できることが多くなりましたが、映像が上手く録画されていなかったり、ドライブレコーダーの設置位置から接触箇所が映っていなかったりすることもあるので、ドライブレコーダーがあるからといって、過失割合の争いがなくなるわけではありません。

また、ドライブレコーダーの映像があっても、人の見方によって、その解釈が異なることもあるので、示談交渉ではまとまらず、訴訟になる場合もあります。

一般的には、交通事故の過失割合は、「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」（判例タイムズ社）を参照にしていることが多いと思います。

この本は、裁判官が、裁判による解決例を中心として基準化を試みた本ですが、道路図や衝突状況を踏まえた基本過失割合や修正要素が掲載されています。

実務上、保険会社も裁判官も、この本を参考にして過失割合を決めていることが多いと思います。

もっとも、交通事故の事故態様は、個々に異なっているので、この本にすべての事故態様に合致した過失割合が掲載されているわけではありません。

この本の全訂５版にも、「実際の事件においては、各事故態様の個別性を踏まえ、基準化された基本の過失相殺率とその修正要素の背景にある考え方を適切に応用していくことが、民事交通事件の適切な解決に不可欠なものであり、過失相殺率の認定基準の画一的な運用は避けるべきである。」との記載があります。

基準化された過失割合は、紛争の早期解決に繋がるというメリットがある一方で、あまりにもその基準化に慣れすぎると紛争当事者の想いや、事故の本質を見失いがちになります。

裁判官も弁護士も保険会社も、毎日、多くの交通事故事件に接しているので、基準化された過失割合を参考にせざるを得ないところはありますが、当事者にとって、交通事故は非日常な出来事であり、辛い体験をして弁護士に相談に
来ているので、そのことを忘れないように事件に取り組まなければならないと感じます。

＜初出：顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2023年11月5日号(vol.286)＞

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

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